ニュースの概要
従業員エクスペリエンス・プラットフォームを提供するCulture Ampが、初めて「Performance Culture benchmarks(パフォーマンス文化の指標)」を公開した。調査では、多くの組織が従業員に求める成果や行動をすでに言葉にしている一方で、その後の進捗確認やフィードバック、支援といった実行の部分が追いついていない実態が浮かび上がった。目標を示すだけではエンゲージメントや成果は伸びにくく、管理職が日々の仕事の中で継続的に関わることが必要だと同社は指摘している。評価制度の設計に力を入れてきた企業にとって、運用の質こそが成否を分けるという、やや耳の痛い結果である。
引用元: Culture Amp、期待設定と実行の乖離を示すパフォーマンス文化指標を発表(PR Newswire)
分析・見解
期待の設定は進み、実行だけが取り残された
今回の指標が示した核心は、制度の整備と日々の運用が別物だという点である。目標設定の仕組みや評価シートは、ここ十年で多くの企業に行き渡った。クラウド型の人事ツールを入れれば、期待の記録は簡単にできる。
ところが、記録することと、守られているかを見ることは別の仕事である。期待を書いた時点で、組織は「やった」という感覚を得やすい。その安心感が、その後のフォローを後回しにする。調査が描いた乖離の正体は、この心理的な錯覚にあると考えられる。
溝を生む原因は、管理職の時間と動機にある
実行の担い手は、現場の管理職である。しかし多くの管理職は自分も数字を追うプレーヤーを兼ねており、部下との対話に使える時間は限られる。年に数回の面談で済ませる運用が、そのまま温存されやすい。
さらに、フィードバックには気まずさが伴う。良い点は伝えやすいが、期待に届いていない点を指摘するのは負担が大きい。評価の対象も多くの場合、部下の成果であって、育成の質ではない。動機づけの仕組みがないまま「もっと対話を」と求めても、行動は変わらない。これは営業でも製造でも共通して見られる構造である。
他の調査とも重なる、継続的な対話の効果
今回の結果は、これまでの知見とよく合致する。たとえばギャラップ社の調査では、管理職が部下のエンゲージメントの大部分を左右するとされてきた。また、年次評価を廃止して頻繁な対話に切り替えたAdobeやDeloitteの事例では、評価作業の工数が大きく減り、社員の納得感も高まったと報告されている。
ここでの独自の視点は、「期待の明確さ」と「期待の追跡」を分けて測る必要があるという点だ。多くの組織は前者だけを満足度調査で測り、高い数値を見て安心している。しかし、追跡されない期待は、時間とともに「建前」に変わる。建前が増えるほど、従業員は上司の言葉を信じなくなる。
今後は運用の質を測る指標が競争力になる
今後、人事の評価軸は制度の有無から運用の実績へ移ると予想される。1on1(=上司と部下の定期的な個別面談)の実施率や、フィードバックの頻度、目標の見直し回数といった行動データが、組織の健康診断の中心になるだろう。AIが面談の記録を要約し、抜けている確認を知らせる支援も、現場に入りつつある。ただし道具が増えても、最後に問われるのは管理職が実際に動くかどうかである。
ビジネスへの影響
まず自社の実行率を測るところから始める
意思決定者が最初にすべきことは、制度を増やすことではなく、既存の仕組みがどれだけ使われているかの確認である。たとえば直近三か月で、全部下との面談が実施されたか、期待に対する進捗の確認が行われたか、といった数字を人事システムから取り出す。手元にデータがなければ、短い従業員アンケートで「上司は私の目標の進み具合を気にかけている」という一問を加えるだけでも、現状が見える。
管理職の負担を減らしつつ、行動を評価に組み込む
実行を求めるなら、管理職の仕事の中に時間を確保する必要がある。会議の削減や報告資料の簡素化で、週に一時間でも対話の枠を空ける。あわせて、部下との対話の頻度と質を管理職自身の評価項目に入れる。評価されない行動は定着しないためだ。
また、対話の型を用意すると気まずさが和らぐ。「うまくいったこと」「詰まっていること」「必要な支援」の三点を毎回聞くだけでも、フィードバックのハードルは下がる。
小さく始めて、三か月ごとに見直す
全社一斉の改革は、現場の抵抗を招きやすい。まず一つの部門で試し、実施率と従業員の反応を三か月見る。効果が確認できれば他部門へ広げる。この段階的な進め方なら、失敗しても損失は小さい。期待を示した後の継続的な関与を、組織の習慣として根づかせることが、今回の調査が示す最も実務的な教訓である。